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 喰霊10巻を読んで、突発的に書き上げたSSです

 お時間ある方、どうぞ~

 (掲載日 2009年 9月 3日)
 ※ 日記を前に持ってくる都合上、このような載せ方をしてます




「いつの間にか、背伸びたんだね……神楽」

 夜の帳。静寂が包む時。
 隣で静かに寝息を立てる神楽を、私は静かに見つめていた。
 思い出すのは、昼間の私――諌山黄泉が何の気も無に放った一言。そして、そこに至るまでの永い、永過ぎるとも言うべき時間と多くの出来事が脳裏を駆け巡る。
 思い出したくない――心の何処かが悲鳴を上げて、苦痛にも似た苦しさが胸を締め上げる。それを仕方が無いと割り切るには、些か心の傷は深過ぎる。
 妹の様に可愛がっていた土宮神楽や対策室の面々、そして愛していた筈の飯綱紀之――その全てに刃を向け、傷つけ、或いは命を奪ってきた。
 それを殺生石が全ての原因だからと言う気にはなれない。殺生石を受け入れた弱さは、少なくとも私自身に有った物、それ故なのだから。
 だから、時折思う。
(私は、神楽と一緒にいるべきなのだろうか――?)と。
 対策室を敵に回して、二人だけで逃げ切れるとは思っていない。それ以上に、私から発する瘴気で周辺の妖を引き寄せてしまっているのは間違いない。ならば、同じ所に居続ける事も出来ない。追われる身が逃げ切れる可能性など、今の情報化が進んだ時代では限りなく小さい。
 なら、神楽だけでも本来居るべき場所に――東京に戻らせるべきだと、心の何処かで叫んでいる私がいる。
 でも、神楽は東京に戻ろうとはしない。それが自らの意思だと、強引に言い張るように各地を転々としている。その原因が、私にあるのは疑いようもないけれど。
 不意に、視線を天井に向ける。
 視界に広がる闇――全てを飲み込む、死後の世界を連想させる暗黒。
(私は何故ここにいるの……。あの時、確かに死んだ筈なのに)
 思い出すのは、最後の瞬間――。


「つまらない過去も、宿命も、家柄も、世の中も、全てが消えうせる」
 神楽に語る声は偽りで。けれど、あの時の私は既に私ではない。殺生石の力に魅了され、目的も何をしたいのかも知らぬまま、永遠に踊り続ける人形と成り果てた。言葉は偽りと本音の合わせ鏡であり、私の弱い心が歪んだ姿にすぎない。
(……やめろ)
 心の声は悲鳴を上げて。
「しがらみから解放されて、私達は自由になるんだよ……神楽」
(違う、そんな自由を私は望んでいない)
 でも本当の心の叫びは届かないまま。ただ大きな流れに身を任せて、力を振るい、そして神楽に、親しい人々に刃を振るった……。
 だから――。
 何も聞きたくなかった。
 何も見たくなかった。
 何も感じたくなかった。
 貝の様に閉じこもっていたい――そう、思い続けた。
「本当の家族になりたかった――」
 耳元で響くのは、神楽の声。
 あぁ、それが叶うなら。もし、神楽と退魔師の宿命も何もかも関係なく、平凡と呼べるような日常の中で生きられたなら。
 でも、それは幻想に過ぎない。
 次の瞬間――私の視線は宙を飛んでいた。
 やられたんだ――何となく、心の片隅で理解していた。
 でも、これで良い。これで、神楽を傷つけなくて済むのだから。
 なのに――。


「泉……黄泉……!」
 揺さぶられる肩の痛みに、朦朧とした意識が醒めていく。ぼんやりとした背景はそのままで、目前にいる神楽の顔だけが、はっきりと映っていた。
「神楽……どうしたの?」
「黄泉が、ずっと……魘されていたから……不安で……また、いなくなっちゃう様な気がして……だから……」
 それ以上、神楽は声にならないようだった。
 そして私も思わず声を失っていた。
 神楽は泣いていた。それを必死に堪えようとしているのだろうけど、それでも溢れる涙は止められず、少しずつ感情が表に出ているのかもしれない。
 その光景が、数年前の記憶と重なっていく。泣きじゃくる神楽の叫びが、満足に動く事すら出来なくなった自身の身体が、そしてその全ての遠因が誰にあったのか、その無念さが電流の様に駆け巡る。思い出したく無い負の記憶が、身体の何処かから沸き上がって来る気がした。
 そっと神楽の頬に触れる。氷の様に冷たさが、指先から心に伝わっていく。
 その冷たさが、私の心に呼びかける。
 私は、神楽と一緒にいるべきではないのでは無いか――と。その不安が声となって零れて行く。
「私は、神楽を傷つけるだけなのかな……」
 溜息と自嘲が交じった心音に、神楽の泣きじゃくる声が少しだけ小さくなった。
「昔も、今も、神楽の心と身体に拭いきれない傷ばかり残して……。
 私は戻ってくるべきじゃなかったのに、何で……また……」
 言葉が続かない。
 心が締め付けられるように苦しくて、これ以上、何も言えそうにない。
 それでも、これだけは言わなければならない。
「御免ね……神楽……」
 目蓋が熱い。景色がぼやけて、何も見えなくなっていく。
 でも、私の意思はそれと無く伝わったのかもしれない。
 私も神楽も、向かい合いもせず黙ったまま。沈黙は空気を重くして、無言の圧力を生み出していく。
 だからなのかもしれない。咄嗟の神楽の行動に私が対処出来る筈も無く、気付けば彼女の為すがままにされていた。
 私の正面に、覆い被さる様に寄り添ってくる神楽。咄嗟の事に訳が解らないまま、それでも神楽を引き離すような事は出来なかった。
「そんなこと無い。黄泉が謝る事なんて、何も無いよ……何も無いんだから……」
 抱きしめるかのように、そっと神楽の腕が伸びてくる。
「黄泉は私が守る……守るから……あらゆる痛み、苦しみ、不幸から、黄泉を守るから。例えどんな事が有っても……きっと、きっと。
 ……だから御願い、そんな悲しい事言わないで……黄泉……よ…み……」
 崩れ落ちるかのように、神楽は私の胸を覆った。
 不意に、神楽の言葉に既視感を覚えた。
 あれは確か――

『殺生石……貴方が私を欲望のまま走らせると言うなら、私の本当の望みを知ってるわよね。私の本当の望み、本当の願い。
 それは神楽……あの子を守りたい。あの子を全ての不幸から守りたい。あの子を全ての災いから守りたい。あの子を傷つけるもの、あの子を危険に晒すもの、あの子に災いを齎すもの、その全てを消し去りたい。
 御願い……あの子を守って。
 不幸を消して。
 災いを消して。
 例えそれが――私自身であったとしても……』

 生前、必死な思いで祈った願い。
 その願いを、今度は神楽が祈っている。
 何という……現実。
 でも――。
(もう二度と失いたくない。例えそれが淡い刹那の時だとしても、私は神楽を守って、神楽と共に過ごしたい……だから――)
 そっと、神楽の背中に両腕を回す。
「神楽……私はお姉ちゃん失格だね……貴方に、こんなに迷惑と心配をかけてる……。こんな私と一緒でも良いの?」
 肯定を示すかのように、小さく首が一度だけ揺れる。
 そっと、神楽を抱きしめながら、私は本当に恵まれているなと思った。
「有難う……神楽……」
 いつか、この時間も終わる時が来る。死者は、やはり現世に留まってはならないのが原則。なら遅かれ早かれ、私は本来在るべき場所に戻される運命なのだろう。
 神楽とこうして一緒に横になれるのも、もしかすれば今が最後かもしれない。
 だから、この僅かな間だけでも――幻想のような刹那の間だけでも、私は私の心に忠実でありたい。そう、願い続けたい。

「神楽……貴女は、私の自慢の妹よ……」

 柔らかな神楽の髪を撫でながら、ふと気付けば、あの時――神楽に放った最後の言葉が自然と口から零れていた……。

To be continued……


アトガキモドキ

 喰霊10巻を読んだ瞬間、落ちて来たイメージから書き上げてみました。正直、喰霊の世界観とか出せたのかな?と、かなり不安ではありますが、はてさて。なお、この話では『零』から『原作』と言う時間軸の設定になっていますので悪しからず。
 割と何処かで誰かが書いていそうなネタですが、被った時は気にしない方向で一つ(汗
 個人的に、黄泉には幸せになって欲しいのですが、原作では果たして今後どうなるのやら。飯綱~君にかかってるんだから、頑張ってくれ~、というか、責めて指輪の一つも渡しやがれ!と、内心突っ込んでおります
 喰零SSはまた書きたいなと思います。その時はもっとコミカルな方向で一つ!……とか言いつつ、結局シリアス方面に逃げるな(汗
 書き終わって思う……これ神楽の記憶が戻ってる前提で書いてないか……(滝汗orz
Secret

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